リモート役員、病院に転職…… 新常態で仕事を変革

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化するなか、仕事や住まいを見直す人たちがいる。複数の仕事を組み合わせたり、暮らしを変えたりすることで新しい働き方が見えてくる。新常態(ニューノーマル)では一人ひとりが自分のキャリアをデザインする時代になりそうだ。
■初のリモート役員に 息子と暮らすため佐賀へ転居
AIG損害保険執行役員の林原麻里子さんが東京都文京区の自宅を引き払って佐賀県唐津市に引っ越したのは2020年7月3日のことだ。4月の緊急事態宣言後に全社員が在宅勤務となった。 港区で働いていた林原さんにとってそれまで都内で暮らすのが当たり前。だが毎日自宅で過ごすようになると「ここに一人でいる意味があるのかと考え始めた」。唐津で寮生活をしている一人息子と一緒に暮らしたいと思った。 相談を受けたケネス・ライリー社長兼最高経営責任者は「ぜひやってほしい」と答えた。同社は全国99カ所に拠点を持つが、30人の役員はほとんどが首都圏在住だ。BCP(事業継続計画)の観点からももっと分散した方がいい。 社員についてはすでに会社都合による転勤を原則廃止している。望まない転勤をなくすだけではなく、望む場所で働けるようにすれば一層、働きやすくなる。こうして初の「リモート役員」が誕生した。社員からは「自分の選択肢も広がる」と期待の声が上がった。 移住してからの林原さんは新しいコミュニケーションの取り方を模索した。頻繁に顔を合わせていた隣の部の部長のほか、担当分野が直接関連しない役員とも1対1で定期的に情報交換を始めた。夏休みに家族とワーケーションを試みた役員もいる。 今春には経理など管理部門の社員約10人も東京以外の地域に引っ越す。リモート勤務を3カ月程度試験運用し、その後ガイドラインなどを作って制度化を目指す。林原さんは海を見ながら仕事できること、家族と暮らせることの幸せに気づいた。「望む勤務地で働くことによって、会社へのロイヤルティー(忠誠心)や仕事へのモチベーションは上がる」ことも実感した。 子育てや介護でリモートを希望する例は想定できる。林原さんは「キャリアは会社が与えてくれるものではなく、主体的に選び取るものという意識に変えたい」と話す。